大谷翔平選手の科学的筋トレ:中高年の応用方法

大谷翔平選手のバイオハッキング的な食事術を前記事で紹介したが、もちろん彼の筋トレもバイオハッキング的だ。つまり、科学に基づいて最適化されている。もっともこれは大谷選手に限らずメジャーリーグでは誰もがやっていることだが。WBC中も東京ドームにはデータ・スタジアムなどという場所が設けられ、各選手の実績を細かくデータ分析していたのを覚えている人も多いだろう。今、すべてがデータ化され、スポーツ界で「科学」は常識になっている。特にアメリカでは。日本もその方向に向かってはいるが、アメリカに比べるとまだまだ遅れているというのが現状だ。

日本にも立命館大学などにはスポーツ健康科学部という学部があり、最先端のスポーツ科学が研究されている。長寿健康法分野でも注目されているHIIT(高強度インターバルトレーニング)だが、その中のTABATAというものは世界中で人気がある。TABATAというのは、立命館大学スポーツ健康科学部の田畑教授から来ていて、日本では田畑法と呼ばれている。ただ、全体的には日本はアメリカより遅れていると言えるだろう。

大谷選手のトレーニングも最新科学に基づいて進められているそうだ。例えば下半身強化のためにダッシュ走やジャンプなどの瞬発系をしているという。日本では、足腰を鍛えるというとまず考えられたのがランニング。ランニングというのはグラウンドを何周も走るような、どちらかというと長距離型のランニングだ。最近のスポーツ科学ではこうした瞬発系の運動が高く評価され、これらに休憩を挟んだものが上記したHIITだ。大谷選手がHIIT形式でそれらをしているかどうかまではわからないが、おそらくそうだろう。というのも意識的に休憩を入れなくても、ダッシュ走をしたら休憩をしなければ第2セットはできないので、セット数をこなしているのであれば自然とHIITになっているはず。

いずれにしても、筋力増強という観点では短距離走のほうが長距離走よりいい。長距離走がよりいいのは有酸素運動としてだが、これでさえ、短距離走をHIIT形式で行うことで、同等の効果があると言われている。4分間のHIITがジョギング30分に相当するとか。

筋力増強という点ではウエイトを使った筋トレがアメリカでは一番さかんで、大谷選手はもちろんウエイト・トレーニングもしている。デッドリフトは225キロの重さでしているという。これは成人男性平均66キロの3倍だ。

シアトル郊外にあるドライブライン・ベースボールという科学技術を駆使したトレーニング施設にも通っている。

彼の場合、投手として必要な身体能力、打者として必要な身体能力、走者として必要な身体能力すべてを強化しているので、そこは他の選手と違うところだろう。例えば投げる時は右で投げ、打つ時は左打者と逆だが、これも計算してそうなっているのだという。右で投げる時は重心が左脚にかかり、打つ時は重心が右脚にかかるようにして、バランスを取っているのだという。そう、彼の動きを観ていて思うのは、すごくバランスが取れているということ。

軽くジョギングする場面でもフォームがとても綺麗だ。左右の脚のバランスが取れていることと背筋もきちんと真っすぐになっている。ダッシュ走を多くしていることが影響しているのかもしれない。僕も最近、SIT(スプリント・インターバル・トレーニングと言って、いわゆるダッシュHIITのこと)をやっていて、気づいたのが、姿勢がよくなること。速く走ろうとすると必然的にお腹を前に出さないとスピードが出ず、お腹を前に出すと必然的に背筋が伸びる。走った後も背筋を使ったという感覚が大きく残る。ジョギングの時とは違い、むしろノルディック・ウォーキングに近い感じだ。

さて、ここで重要なのが、大谷選手は自分の目的に合わせて最適なトレーニングを行っているということ。野球選手でも打者だけの場合、トレーニング法は変わってくるだろうし、同じアスリートでもサッカー選手だとまた変わってくるだろう。サッカー選手は長時間走り続ける必要があるので、逆に持久系のトレーニングも入ってくるだろう。

では、僕らの場合どうなのだろうか。アスリートでも何でもない中高年の一般人が、長寿のために行う最適なトレーニングとは。長寿といっても表現があいまいなので、もう少し明確にしてみよう。120歳まで病気にかかることもなく、怪我をすることもなく、健康で元気に生きる。必ずしも寿命を延ばすのではなく健康寿命を延ばすこと。つまり、ライフスパンではなく、ヘルスパンを延ばすこと。

ここでも大谷選手のやっていることと同じことができる。つまり、科学を用いるということ。そして、僕が今挙げた目的を達成するための科学もあるのだ。今まではわからなかったのだが、ここ数年の間に科学的に最適なトレーニング法が解明されてきている。

科学がキーワード。

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例えば、ジョギングで30分かかる有酸素運動効果をHIITではたったの4分でできてしまうと言った。この効率性の差は大きい。今までは「運動か、でも時間がないからな」と言って断念していたのだが、4分でできるとなったらどうなるだろうか。

病気にならないためにどういった運動が有効なのか。これはもちろん断食や食事も関連してくることなのだが、仮に運動だけで考えてみた場合、2種類ある。ハーバード大学のデビッド・シンクレア博士によると、低強度有酸素運動と高強度有酸素運動の2つが必要だという。

では、怪我予防は? そうなのだ。それら2つはあくまでも病気予防であり、怪我はまた違ってくる。よく、運動すればすべてが解決するというようなことを言うが、病気予防と怪我予防では運動の種類が変わってきて、そこを理解していないと本末転倒になってしまうこともある。というのも、上記2つの運動もすればするほど怪我のリスクは高まり、病気は予防できても怪我にはかえって悪影響ということもあるからだ。

怪我予防に関しては、長寿健康法の専門医であるピーター・アティア医師の見解が参考になるだろう。ちなみにアティア医師はハワイのマウイ島からラナイ島までの往復遠泳を世界で初めてやりとげたウルトラスイマー医師でもある。彼が怪我予防に勧めるのはスタビリティ・トレーニングと筋トレだ。スタビリティというのは安定とバランスという意味。アティア医師の面白いところは具体的な状況までイメージしていることだ。彼は100歳になった時孫と遊ぶ場面(100歳だと曾孫かもしれない、笑)を想定していて、孫を軽々しく持ち上げたりできるようになっていたいそうだ。その場合、腕力も必要だが、立っている時のバランス力も必要だ。孫を持ち上げられたものの、自分がバランス崩して倒れてしまったら洒落にならない。「じいちゃん、何してんねん」と大騒ぎになる。

その辺は大谷翔平と同じだ。具体的なパフォーマンスを意識し、それに向けた最も効果的なトレーニング法を科学から導き出す。ワールドシリーズでサヨナラ満塁ホームランを打つのか、孫を抱き上げた状態で転倒しないかの違いだけで、ステップは同じだ。もっとも、ピーター・アティア医師だって今現在はウルトラスイマーだが。

具体的にどのような運動をどのぐらいしたほうがいいのかに関しては、ぜひとも本を読んでもらいたい。ピーター・アティア医師の運動法についても載っているし、デビッド・シンクレア博士の運動法についても載っている。

『自然派バイオハッキング:日本の里山で発酵させたシリコンバレー発の長寿健康法』

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